チューナーレステレビはNHKが映らないだけじゃない その他の特徴をよく理解しよう
先日、賃貸経営を行う大家さんとしては、入居者のテレビライフはどうなっているんだ?という観点でHDMI端子とその接続機器に関して整理しました。
今回は、その第2弾とも言うべき内容になっています。そのテーマとは「チューナーレステレビってなに?」です。ここを深堀りしていきます。
「NHKが映らない」だけじゃない
チューナーレステレビというのは「チューナーが搭載されていない」テレビという意味です。チューナーがない、ということは地デジやBS/CSなどの放送が一切受信できないということになります。
これを以て、NHKが映らないテレビだ、受信料を払わなくてもいいのだ、みたいな論調が世間にはあります。
確かにそこは真なのですが、筆者としては、NHKが映らないというのはチューナーレステレビの一つの側面しか見ていないように考えています。
髪の毛が少し白くなってきたからなのか、根がマジメだからなのかわかりませんが、筆者個人はNHKを比較的よく見ます。良い番組も多いと感じています。もちろん受信料払ってます。
ポイントはそこではなく、どうしてこういう商品があるのか、どんな人に適した商品なのか、などを理解すべき考えています。
生活者の目線でこういうものが必要になっているトレンドを理解し、その結果として、今どきの入居者にあった物件とは何か。賃貸大家さんとしてはここを考えるべきなのです!ちょっと大げさですが…
チューナーレステレビとはなにか?
今までの普通のテレビは、空気中を流れる見えない放送電波をテレビの映像放送に復調するデバイスである「チューナー」が搭載されています。
チューナーレステレビとはチューナーが搭載されていないテレビのことです。そのため、普通のテレビならある同軸のテレビ入力端子が背面にありません。
それでは昨今巷で売られている、チューナーレステレビの特徴をあげてみましょう。
- 地デジや衛星放送の入力端子がない
- Google TV と謳われている
- WiFiが搭載されている
- チューナー付きのテレビより安い
1つ目のポイントはわかりやすいですね。同軸ケーブルとも呼ばれるテレビ用のアンテナ線。これが刺さる口がチューナーレステレビにはありません。
2つ目の点「Google TVと謳われている」ですが、ここがある意味大きなポイントです。
話が少しずれますが、スマホではAppleのiPhoneとそれ以外の機種に大きく分類されるのはご存知の方も多いでしょう。「iPhone以外」に分類されるスマホは、中身は殆どがAndroidです。AndroidはGoogle製のOSで、Googleが各スマホメーカーにライセンス供与しているというビジネス上の仕組みがあります。
実は、チューナーレステレビにおけるGoogle TVとは、スマホのしくみをテレビに適用したようなものです。つまり、各テレビメーカはGoogle提供のテレビ用OSを自社製品に組み込み商品化します。ベースとなっているのはAndroidです。したがって、Google TV用のソフトを開発するテレビメーカーやアプリ提供者にとっては、スマホのノウハウを活用できるというメリットがあります。
ご想像の通りGoogle TVでも、スマホ同様、Google のPlay Storeからアプリをダウンロードできます。このあたりもスマホと同様のイメージです。
ですので上記3であげた「WiFiが搭載されている」のは必須です。テレビに映るコンテンツはインターネットから来ることになりますので、当然ですね。
最後に、4番目。チューナーがついていない分「チューナー付きのテレビより安い」という点。ここは注目ポイントです。ただし、変速機がついていな自転車のほうが安い、といった単なる機能の有り無しの話だけではありません。
機能の有り無しや、部品点数の話としてだけみると、トレンドを見誤るかも知れません。背後の事情を知ると、チューナーレステレビがより味わい深いものになるでしょう(!?)
実は、いわゆるデジタル放送の「チューナーという機能」は世界中見渡して日本と全く同じものを使っている国はありません。日本はこの領域でも「ガラパゴス」なのです。ということは、メーカーがチューナー付きテレビを売るためには「日本専用」の商品にする必要があります。
ところがチューナーがなければ、全世界共通の商品として作ることができ、ボリュームメリットが効くことになります。現に、チューナーレステレビを出して参入してきているのはTCLやKONKA、Xaomiといった中国メーカーです。チューナーがないことにより、彼らはグローバル向けに作った商品をかんたんに日本市場に導入できるようになった。また、国内においてもこれまでテレビを作っていなかった会社が、OEMという形でチューナーレステレビを出しやすくなりました。(グローバルで作ったテレビを日本向けとして出すにあたり、日本の電波規制への対応や電気のプラグ形状違いなど、細かな変更は必要のはずです)
チューナーレステレビはこんな特徴で成り立っている商品なのです。
チューナーレステレビはPCモニターじゃないのか
放送が映らないテレビは、PCモニターとなにが違うの?
という方がいます。
上述のように、昨今のチューナーレステレビは、Google TVがトレンドです。テレビ自身がネットからコンテンツを取ってきて表示できます。
一方、PCモニターという商品はネットにつながりません。映像機器からのコンテンツは、HDMIやDisplay Portといった端子を通してのみ表示可能になります。もし、チューナーレステレビと同じようなコンテンツ視聴をしたければ、前回の記事で紹介したようなHDMIの映像出力をもつガジェット商品(例えば、AmazonのFireTV stick)を買ってつながなければなりません。
その点、チューナーレステレビの場合は、テレビの後ろになにもつなぐ必要がないのでPCモニターに後付するよりもスッキリします。
ただし、スマホを見ているとおわかりのようにソフトウェアの進歩は特に激しい。Google TVやコンテンツ視聴向けのOSはすぐに古くなる可能性があります。ですので、それで成り立っている小さなガジェットだけを買い替えてPCモニターは使い続ける、という戦略も考え方として悪くありません。そうやってエンターテインメント環境が古くならなくするというのも一つの手です。考え方次第といったところですね。
チューナーレステレビがフィットするユーザーは?
チューナーレステレビを買う人は地デジのような放送を見ないユーザーなのでしょうか。
筆者はそうは考えていません。
世は、コスパ(コスト・パフォーマンス)ではなくタイパ(タイム・パフォーマンス)の時代。リアルタイムでコンテンツを視聴することはあまり重視されなくなってきているのです。
マクロミルというサイトの調査「する?しない?動画の倍速再生2,400人に聞いてみた!」によると、どの世代も半数は動画を倍速で観るし、若いほどその傾向は高い。
ならば放送を録画して観るのか?
「レコーダー市場規模、19年の3分の1に縮小」という記事に出荷台数の推移が載っています。これによると、BDレコーダーの出荷は縮小しています。理由はTVerをはじめとする見逃し配信サービスの普及です。つまり、テレビで放送したものをネットで観る、というカルチャーです。
等速でリアルタイムでテレビを観るという体験は時代遅れになりつつある。代わって、ネットでキャッチアップという流れがあるというわけです。
ちなみに、放送が受信できないテレビだからといってリアルタイムのコンテンツが観られないかと言うとそんなこともありません。YouTubeでも「ライブ」という配信形態があります。かの「第100回 箱根駅伝」は日テレがTVerでリアルタイムで配信していました。
ということは、若い世代ほど「チューナー付き」であることは必須でなくなってきているということです。もしかすると、大家さんであるあなたの賃貸物件にある「テレビ端子」に何も挿していない若い入居者も多いかも知れないのです!
テレビの中心が変わった!?
放送が映らないなら「テレビ」というコトバの意味するところも変わってきそうなものです。
もともと「テレビ」は「放送」とイコールでした。ですので、チューナーレステレビは、そういう意味ではもはや「テレビ」ではないのです。あの佇まい、薄い板の形状、それを持った製品を我々は「テレビ」と呼ぶことになったようです。
Google TVの登場により、テレビの機能的な中心も変わりました。
Google TV以前のテレビは、電源入れたら地デジやBSなど「放送」が表示されました(下図の左)。ネットにつながるテレビもありましたが、それでも「放送」が中心です。ネット動画は一旦メニュー(ホーム画面)を経由する形で切り替えました。
一方、Google TVはコンテンツなどの一覧が華々しく表示されるホーム画面が中心です。
電源を入れてもまずはホーム画面です。スマホに慣れ親しんだユーザには違和感がないでしょう。ホーム画面でアプリのアイコンをタップしてYoutubeなどの動画配信サービス(アプリを開く)。Google TVもこれと同様の使い勝手です。それに加えて、アプリの「起動」だけではなく、アプリが提供するコンテンツ(動画そのもの)へダイレクトに移動することすらできます。
市場にはGoogle TVをOSとして搭載したチューナー付きのテレビも売られていますが、その場合「放送」はYouTubeやNetflixと同列の一アプリとして扱われます(下図の右)。そして、「放送」機能(赤枠)がないのがチューナーレステレビというイメージになります。
つまり、Google TVの登場により、テレビの中心が放送という意味の「テレビ」ではなくなったというわけです。
まとめ
チューナーレステレビは、NHKが映らないテレビではない。チューナーがないので、NHKどころか民放も映りません。しかし、昨今、アンテナ線につないでリアルタイムに映像を観るよりも、TVerなどの見逃し配信が普及。タイパが象徴する時間感覚で、実時間ではなく倍速で視聴する若いユーザも増えている。
そこに出てきたのが、Google TVというスマホを大きくしたようなテレビ。それがチューナーレステレビ。
今後は、賃貸物件に「テレビ回線」は不要になるかも!?
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